ネズミ取りのメイちゃん (カイル) |
「やったー!罠にネズミが二匹も入っている!」めったにない収穫(?)だそうです。
ハワイの山を歩いていると、意外なことにいろいろな研究家に会います。植物を研究している人はもちろん、野鳥やカタツムリ、蜂などの研究家にも会ったことがあります。それだけハワイの自然が研究されているということですね。つまりハワイの自然の奥深さを象徴していると思います。
今年に入ってからは、マノア滝ハイキングツアー中に、よく会うのが、ねずみ取りのメイちゃん(Mayee Wongさん)です。いつも大きなリュックを背負っていて、そのリュックには沢山の鉄製の罠がついています。会うと、いつも少しおしゃべりします。「今日のネズミのとれぐあいはどう?」「今日はよかったですよ!」とか。前からブログで紹介したいなと思っていたのですが、先週タイミングよく山道であったので写真を撮らせてもらいました。(携帯電話のカメラですので画像が悪くてすみません。)
メイちゃんはハワイ大学の博士課程に入っていて、コースワーク(ゼミ)は全部終わらせており、現在は博士論文を書くためにフーィルドワークでデータ収集をしているところです。研究の課題はレプトスピラ細菌です。
登山道や滝壺でこのレプトの注意標識がよくあります。山でキャンプをする時は湧き水から水を汲む以外は水を沸騰するか浄水剤を利用する必要があります。
レプトスピラ(ハワイでは短く「レプト」と言う)というのは動物の尿、特にネズミとマングースの尿に入っており、その尿で感染された水に接したり、飲んだりすると人間も感染されることがあります。最悪の場合、死に至ることもありますが、風邪のような症状が出ることがほとんどです。早い段階でわかれば抗生物質で簡単に治ります。
レプトに感染された水を飲んでも胃酸がレプトを殺すので大丈夫だという人もいますが、傷口から感染する場合もありますし、沢や滝壺に飛び込んだりして、鼻や目からも感染する可能性もあります。以前、ツアーに参加していただいた獣医さんがレプトは日本にもあると教えてくれました。
罠はやっぱり日本製がよいそうです。金属札に「さわるな/調査中/ハワイ大学」とあります。お客さんはクマネズミ(Rattus rattus)。
メイちゃんの話に戻る前に皆さんに一つ注意したいと思います。レプトは地上を流れている水、つまり川、沢、滝の水などに混じっている可能性はありますが、ハワイの水道水がレプトに感染されている可能性はないのでご安心ください。ハワイの水、特にオアフ島の水道水は世界一美味しいという人もいます。オアフ島の水は100%深い井戸から汲まれている井戸水なのです。オアフ島の水道水は純粋な水で何も処理しないでそのまま井戸から直接利用しているか、もしくは軽い塩素処理をしているだけです。(オアフ島でボトルウォーターを買う必要はありません。売っている水も水道水も元は同じです。どうぞ水筒を使ってペットボトルのゴミを減らしましょう!)
研究区域の罠を集めてから道具をセットアップします。注射器、麻酔剤、コットン、金属のバンドなどの調査用道具一揃い。
メイちゃんは、ハワイのネズミやマングースの中で、どれほどレプトが流行っているかなど、レプトの生態を徹底的に研究しています。研究エリアがマノア渓谷の奥です。
メイちゃんは米国のNational Science Foundation(国立科学財団*)が資金を出しているIntegrative Training in Ecology, Conservation and Pathogen Biology Program (IGERT)に所属しています。このプログラムはハワイ大学を含め、いくつかの優秀な米国の大学が実務を担っており、参加している大学は国立科学財団から資金をもらって実際のプログラムを行います。特別研究員への奨学金制度なのですが、このプログラムが重視しているのは多専門的な研究アプローチです。つまり、一つの問題、メイちゃんの場合はレプトスピラを一つの分野ではなくいくつかの専門分野から研究するわけです。このプログラムに参加している教授達も皆さまざまな専門分野、さまざまな学部の先生ばかりです。このプログラムに所属している大学院生は生活費や研究費にも使える奨学金をもらっています。
メイちゃんのフーィルドワークでは、ネズミを捕獲してから、まず麻酔をかけ、落ち着かせます。それから体重や体長を測ったり、採血してから、最後に鉄製のID番号を耳に付けます。生かして戻すやり方で同じネズミを数回捕獲しているそうです。
クマネズミの体重を測るところです。クマネズミの特徴の一つはしっぽが体と同じぐらいの長さがあるところです。
メイちゃんの紹介がハワイ大学のこのサイトで見ることができます。
ハワイ大学のIGERTプログラムの紹介はこのサイトへどうぞ。
ネズミの足の血管から採血するメイちゃん。
ちなみにハワイには4種類のネズミがいますが、どれも外来種です。
メイちゃんの研究結果が楽しみです。
*米国国立科学財団というのは米国連邦議会が1950年に作った財団で様々な研究の資金や奨学金を提供する財団です。